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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)1号 判決

大阪府門真市大字門真1006番地

原告

松下電器産業株式会社

代表者代表取締役

谷井昭雄

訴訟代理人弁理士

阿部功

役昌明

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

指定代理人

柿澤紀世雄

田中靖紘

涌井幸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、昭和62年審判第811号事件について、平成3年10月17日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年3月16日、名称を「チップ状固体電解コンデンサ」とする考案につき、実用新案登録出願をした(昭和56年実用新案登録願第37396号)が、昭和61年10月31日に拒絶査定を受けたので、昭和62年1月8日、これに対し不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を昭和62年審判第811号事件として審理し、平成2年7月11日実用新案登録出願公告(実公平2-25230号公報)がなされたが、実用新案登録異議申立てがなされた結果、特許庁は、平成3年10月17日、「本件異議申立ては理由がある」旨の決定とともに、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成3年12月3日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

別添審決書写し記載のとおりである。

3  審決の理由

別添審決書写し記載のとおり、審決は、本願考案の出願前に我が国において頒布された刊行物である実願昭53-75832号の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフイルム(以下「引用例1」という。)並びに実願昭52-173387号の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフイルム(以下「引用例2」という。)を引用し、本願考案は、引用例1と引用例2に基づいて当業者が容易に想到しうるものであり、その効果も引用例1及び引用例2の技術を採用することにより当然に予測される範囲のものであって格別のものとは認められないから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないと判断した。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由のうち、引用例1、2の各記載内容の認定は認める。

しかしながら、審決は、本願考案と引用例1との対比において、共通しない構成を誤って一致点と認定したため、両考案の相違点を看過し(取消事由1)、引用例1、引用例2に開示されている技術事項を誤って認定したため、本願考案の容易想到性の判断を誤り(取消事由2)、本願考案の奏する格別の作用効果を看過した(取消事由3)結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(引用例1との相違点の看過)

審決は、本願考案と引用例1との対比において、引用例1のチップ状固体電解コンデンサと本願考案とは、「前記陰極端子板と陽極端子板の突出した前記外装した絶縁性樹脂層側部面および底部面に沿って前記外装した絶縁性樹脂より突出した陰極端子板と陽極端子板の先端部を折曲げ構成したフエースボンデングタイプのチップ状固体電解コンデンサ」(審決書6頁16行~7頁1行)である点で共通していると認定したが、誤りである。

本願考案は、上記構成(以下「構成(Ⅰ)」という。)を有するのに対し、引用例1に開示されているチップ状固体電解コンデンサは、審決が参照すべきものとした引用例1の第2図、第3図及び第17図のいずれにおいても上記の構成(Ⅰ)を備えていない。

すなわち、本願考案におけるコンデンサは、コンデンサ素子に固定される陰極端子、陽極端子がいずれも板体で構成されており、絶縁性樹脂10の外装を型として陽極端子板7と陰極端子板8を折り曲げているので、各端子板は、絶縁性樹脂層の側面部及び底面部に沿って隙間なく折り曲げられ、この端子板が基板(回路基板)に載置され、コンデンサ本体と基板との間には隙間が生ずるタイプのものであるのに対し、引用例1(甲第5号証)のコンデンサは、陽極端子4、陰極端子5の先端部は、L字型ではあるが、絶縁性樹脂の外装と平行になるように隙間をあけて折り曲げられており、パーツフィダで供給した場合、各コンデンサが絡み合うもの(第2図)、陽極端子板及び陰極端子板の先端面11a、12aがコンデンサ本体の底面10aと同一平面上に位置しており、本体と基板との間に間隙を有しないもの(第3図)、陽極端子11及び陰極端子12が線状のものであるほか、単に本体の底面に沿ってのみ折曲げられ、本体の突起部10dを基板に直接設置する構成のもの(第17図)など、本願考案と構造及び作用を異にする構成が記載されているにすぎない。

審決は、本願考案と上記のような引用例1のチップ状固体電解コンデンサの構成上の相違を看過し、一致点と認定した誤りがある。

2  取消事由2(引用例1、引用例2の開示する技術事項の認定の誤り)

審決は、「チップ状固体電解コンデンサを基板上に安定に設置するために、コンデンサの底部の両端子間に、基板上に設けた接着剤層に接着される平坦な平面部を有する板状体の凸部を設けることは、引例1記載〈4〉で公知である。」及び「半導体装置のようなチップ状電子部品を基板上の接着剤で確実に固着するために部品の底部の端子板間を凸部にすることが引例2に開示されている」と各認定するが、誤りである。

本願考案は、上記(Ⅰ)の構成を有するチップ電解コンデンサにおいて、「前記外装した絶縁性樹脂層の底部の陽極端子板と陰極端子板との間に、コンデンサが取付けられるべき基板の所定の箇所に設けた接着剤層に接着される平坦な平面部を有する板状体の凸部を設けた」ことをその必須の構成(以下「構成(Ⅱ)」という。)とするのに対し、引用例1においては、本願考案の必須の構成である構成(Ⅱ)を備えていない。

まず、引用例1の第17図のフエースボンデングタイプのチップ状固体電解コンデンサは、突起部10dが陽極端子及び陰極端子に関連なく突出し、基板上の接着剤に本体を直接固着する構成のものであり、コンデンサ本体10の表面である突起部10dの平坦部10eと基板との間に間隙を有しないものである。これに対し、本願考案は、「凸部12の厚さはチップ状部品を平面上に置いた時、平面にほぼ接する厚さが適当である。すなわち折曲げ加工された底部の陽極、陰極端子面と同一高さ、またはそれ以内とする。」(甲第7号証4欄4~8行)と記載されているとおり、凸部12でチップ状部品の本体を基板上に支持するものではなく、本体は、陽極端子板と陰極端子板とで基板上に支持される(同号証7図参照)。

次に、引用例2に記載のものは、本願考案の対象とするフエースボンデングタイプの固体電解コンデンサではなく、半導体装置に係るものであり、しかも、本願考案のように端子板が基板に設置されるタイプのものでなく、容器1(本願考案の「本体」に相当する。)の表面7に、くぼみ8、9、10を形成し、リード線の折曲部2B、3B、4B(本願の「陰極端子板」及び「陽極端子板」の各折曲部に該当する。)を上記くぼみ内に位置させることにより、容器1の表面7と基板との間に間隙がなく、容器1の表面7を直接基板11に接着する構成を有しているものが記載されている(甲第6号証第5~第7図)。

したがって、審決は、本体の支持体とならない本願考案の板状体の凸部について、引例用1、2に何らの記載も示唆もないのに、これが開示されているとする誤った前提に基づき、本願考案が容易に想到できるとの誤った判断をした。

3  取消事由3(本願考案の格別の作用効果の看過)

引用例1、2では、本体の表面又は突起部が基板との接着及び本体の安定な設置の両機能を兼ねており、他方、両極端子が基板と直接の接触をしないから、本体と基板との間には接着剤層が介在し、本体を押し付ける強さによって接着剤層の厚みが変化し、接着強度にバラツキが生ずる。

他方、本願考案は、本体と基板間に間隙を有するチップ状固体電解コンデンサを対象としており、構成(Ⅰ)によって、折曲げられた両極端子板を基板との電気的な接続のほか、基板に対するコンデンサ本体の安定な設置に寄与させる一方、構成(Ⅱ)の凸部を専ら接着に寄与させ、基板との間隙を小さくして、接着剤層の厚みを薄くし、もって接着強度のバラツキという技術課題を解決するという格別な作用効果を奏する。すなわち、本体の安定な設置の寄与に関する部分を両端子板に委ねることによって、接着剤が硬化するまでの間、接着剤が流動性を有していても、本体が横滑りして位置がずれることなく、かつ基板上の接着剤層と凸部との間隙を小さくすることによって、チップ状部品を容易にバラツキなく安定して接着することが可能となる。

審決は、このような本願考案の格別の効果を看過し、引用例1、2から予測できる範囲のものと誤って判断した。

第4  被告の主張の要点

1  取消事由1について

審決が引用例1のフエースボンデングタイプのチップ状固体電解コンデンサの具体的な構成に関して認定しているところは、引用例1において審決が摘出した〈1〉~〈3〉に記載されているとおりのものである。すなわち、審決において〈1〉として摘出した部分には、「本願考案はフエースボンデングタイプのチップ状固体電解コンデンサに関する」と記載されており、その陽極、陰極端子の具体的な構造は、〈2〉として摘出した部分に記載されているし、さらにそのチップ状固体電解コンデンサの本体の材料、樹脂でそれを外装することを含めた全体の構造は、〈3〉として摘出した部分に詳細に記載されている。

すなわち、引用例1には、第2図に記載されているようなL字状の陽極端子及び陰極端子を引き出した構造、両端子が4端構造ではあるが、「陽極端子11、陰極端子12の形状も板状であってもよい。」(明細書13頁4~5行)との記載など、原告主張の構造に限られない構成が記載されており、両端子が板状のものやこれが基板との間に間隙を有しているもののほか、突起部10dを有するものも開示されているとみるべきものである。

してみると、引用例1に本願考案の構成(Ⅰ)が示されていないとする原告の取消事由1の主張は理由がない。

2  同2について

本願考案の構成(Ⅱ)を凸部の構造や機能から分析すると、「コンデンサが取付けられるべき基板の所定の箇所に設けた接着剤層に接着される」点については、引用例1の審決が〈4〉として摘出した記載と同一のものであり、「平坦な平面部を有する板状体」との点も同一である。すなわち、引用例1の第17図のコンデンサ本体10に一体形成された突起部10dも、コンデンサが取付けられる基板の所定の箇所に設けた接着剤層に接着されるものであり、当該凸部が板状体となっていることは明らかである。

原告は、本願考案の凸部は折曲げられた両端子面と同一高さ又はそれ以内の厚さであるとか、この凸部がチップ本体を支持するようなものではないと主張するが、凸部12の厚さは、接着剤の厚さと、基板の状態と、基板によって生ずる隙間の大小によって決まるもので、単なる設計事項であるほか、同主張は、そもそも本願考案の要旨に基づかない主張であるから失当である。

次に、原告主張のとおり、引用例2に記載されたものは、半導体チップであり、本願考案の固体電解コンデンサとは区別される。しかし、本願考案の技術課題とする一連の工程は、電子部品の構造、接着剤による基板への仮着及び半田付けなど、引用例2に記載されているものと全く同一である。

そして、チップ状電子部品を基板上に確実に接着するために、電子部品の底部にくぼみを設け、端子板をそのくぼみの内部に位置せしめることと、端子板間に端子板から見て凸部を設けることとは、単なる製作上の差異にすぎず、容器1の表面に接着及び安定な設置に寄与する部分である凸部が形成されている点で同一であるから、端子板間を凸部にすることが引用例2に記載されているとする認定は相当である。

そして、本願考案の必須の構成である構成(Ⅱ)は、チップ状部品と基板との間に間隙を生ずる場合の問題として、引用例1、引用例2に開示されている各事項に基づき、当業者であれば容易に想到しうることであるから、これと同旨の審決に誤りはない。

3  同3について

原告は、本願考案においては、両極の端子板のみが基板との安定な設置に寄与し、凸部は接着に寄与するのみで安定な設置には寄与しない旨主張するが、本願考案の凸部の機能が主張のものには限られないこと上記のとおりであるほか、凸部の機能のうち、安定な設置に寄与するとの機能をなくするようにしたことに格別の意義があるとすることは疑問であり、これによる利点や合理的理由については、本願明細書では明らかでない。

したがって、本願考案の凸部及び両端子の作用効果には、技術的に進歩性が認められない以上、その作用効果にも格別のものはないとした審決の判断は相当である。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する(書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。)。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1について

引用例1に、フエースポンデングタイプのチップ状固体電解コンデンサに関する考案が記載されており、その明細書中に審決が〈2〉として摘出した「第2図に示すコンデンサの場合、本体部分1の両端面よりL字状の陽極端子4および陰極端子5を引出した構造で陽極端子4と陰極端子5の先端部は本体部分1の底面と平行となるように折り曲げた形状であるため、本体部分1の底部とプリント基板までの間に大きな空間ができ、接着剤による貼付けが難しくなるとともに、全体の高さが高くなっていた。」との記載があることは、当事者間に争いがない。

原告は、上記の引用例1の第2図に図示されたコンデンサについて、本願考案の構成(Ⅰ)と比較して、陽極端子4、陰極端子5の先端部が本体部分の底部面と平行になるようにL字型に折曲げられてはいるが、本体部分との間に隙間をあけて折り曲げられているから、本体部分を型として、両極端子板を本体部分の側面部及び底面部に沿って隙間なく折り曲げられている本願考案の構成(Ⅰ)を備えていないと主張する。

しかしながら、前示当事者間に争いのない本願考案の要旨を示す実用新案登録請求の範囲の記載中、本体部分の底部面と折曲げられた両極端子の先端部との関係に係る記載を検討しても、「前記陰極端子板と陽極端子板の突出した前記外装した絶縁性樹脂層側部面および底部面に沿って前記外装した絶縁性樹脂より突出した陰極端子板と陽極端子板の先端部を折曲げ構成した」との記載があるのみであって、本体底部面と折曲げられた両端子板との間隔については何らの規定がなく、甲第1~第3、第7号証により認められる最終補正後の本願明細書及び図面第5図及び第7図には、本体底部面と折曲げられた両端子板との間に空間がある構成のものが本願考案の実施例として記載されていることからしても、本願考案は、両端子が底部面と隙間なく折曲げられた構造のものだけに限定されているとは認められない。

したがって、本願考案が上記の隙間がない構成のものであることを前提とする原告の取消事由1の主張は、理由がない。

また、原告は、引用例1の第3図、第17図に記載されたものが、本願考案の構成(Ⅰ)を備えていないと主張するが、審決のこの点に関する一致点の認定(審決書6頁16行~7頁1行)は、審決が引用例1の記載事項〈2〉として摘出した第2図に示されるコンデンサの構成に基づく認定であることは明らかであり、上記第3図、第17図のものも本願考案の構成(Ⅰ)を備えているとする趣旨ではないから、この主張も理由がない。

したがって、審決が引用例1に記載されたものに本願考案の構成(Ⅰ)において共通すると認定したことに誤りはない。

2  同2について

甲第5号証によれば、引用例1の第17図に記載されたものは、突起部10dの表面10eと折曲げられた両極端子11、12の下面とがほぼ同一面となっていることが認められ、また、引用例2(甲第6号証)の審決が挙げた第5図ないし第7図に記載のものは、容器1の表面7が折曲げられた両端子2ないし4の各Bの下面(第6、第7図)よりも突出している構成のものが記載されていることが認められる。

原告は、この点をとらえて、引用例1、2のものは、本体平坦部10e又は表面7を直接接着するものであるのに対し、本願考案では凸部と基板との間に隙間が存在し、本体の支持部とならない凸部を有することを必須の構成とする点で審決の引用例1、2の技術事項の認定は誤りである旨を主張する。

しかしながら、本願考案の要旨には、凸部の厚さないし折曲げられた両極端子板の端子板面(底側)と凸部の平面部との相対的な高さの関係ないし凹凸関係については何ら規定するところがなく、原告の主張する「凸部12の厚さは、折曲げ加工された底部の陽極、陰極端子板面と同一高さ、又はそれ以内とすること」は、本願考案の要旨となるものでないことは、前示当事者間に争いのない本願考案の要旨に照らし明らかであるから、原告の主張は、本願考案の要旨に基づくものではなく、失当である。

のみならず、審決が引用例1の記載事項〈4〉として、その第17図に記載されたものを挙げ、引用例2の記載事項〈1〉、〈2〉として、その第5図、第6図を挙げたのは、折曲げられた両極端子板の端子板面(底部)と凸部の平面部との相対的な高さには関係なく、要は、チップ状固体電解コンデンサあるいは半導体装置のようなチップ状電子部品を基板上に安定に設置するために、同部品の底部の両端子間に基板上に設けた接着剤層に接着される平坦な平面部を有する凸部を設けた公知の技術を示すためであることが審決の理由の記載(審決書7頁16行~8頁3行)から明らかであり、この公知技術が引用例1、2に開示されていることは、前示当事者間に争いのない引用例1、2の記載事項(審決書5頁2~6行、同頁12行~6頁5行)に基づき、十分に認められるから、審決が本願考案の板状体の凸部について、同一構成及び機能のものが引用例1、2に開示されていると認定したことは相当である。

そして、この公知技術に基づけば、本願考案の(Ⅱ)の構成は、当業者が容易に想到できることは明らかというべきであるから、これと同旨の審決の判断に誤りはなく、原告の取消事由2の主張は理由がない。

3  同3について

原告は、本願考案は、板状体の凸部の厚さが両極端子の端子板よりも薄いものであり、引用例1、2との間にこの点で構成の相違があることを前提として、本願考案の格別の作用効果を主張する。

しかしながら、凸部と両端子板との相対的な高さが本願考案の要旨からみて、これに限定されるものでなく、両端子板面よりも突出した形状のものを排斥するものでないことは上記2のとおりである。

そうすると、原告の主張する本願考案の格別の作用効果は、誤った前提に立った主張というほかはなく、本願考案に格別の作用効果はないとする審決の判断は、相当である。

4  以上のとおり、原告の取消事由1ないし3の主張は、いずれも理由がなく、その他審決を取り消すべき事由も見当たらない。

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 三代川俊一郎)

昭和62年審判第811号

審決

大阪府門真市大字門真1006番地

請求人 松下電器産業株式会社

東京都国分寺市南町3-12-11

代理人弁理士 阿部功

昭和56年実用新案登録願第37396号「チツプ状個体電解コンデンサ」拒絶査定に対する審判事件(平成2年7月11日出願公告、実公平2-25230)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本願は、昭和56年3月16日に出願されたものであって、当審において出願公告されたところ、実用新案登録異議の申立がなされたものである。

本願考案の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、実用新案登録請求の範囲第1項に記載されたとおりの

「陽極導出線を備え、かつ表面に誘電体性酸化皮膜を有する陽極体上に電解質層を形成し、順次陰極層を積層形成し、前記陰極層上に陰極端子板を、前記陽極導出線に陽極端子板を固定してコンデンサ素子とし、前記コンデンサ素子を前記陰極端子板、陽極端子板の先端部を除き絶縁性樹脂により外装してコンデンサ本体を構成し、前記陰極端子板と陽極端子板の突出した前記外装した絶縁性樹脂層側部面および底部面に沿って前記外装した絶縁性樹脂より突出した陰極端子板と陽極端子板の先端部を折曲げ構成したフエースポンデングタイプのチップ状固体電解コンデンサにおいて、前記外装した絶縁性樹脂層の底部の陽極端子板と陰極端子板との間に、コンデンサが取付けられるべき基板の所定の箇所に設けた接着剤層に接着される平坦な平面部を有する板状体の凸部を設けたチップ状固体電解コンデンサ」

これに対して登録異議申立人(ニチコン株式会社)が甲第9号証及び甲第6号証として提示した各刊行物には、次に示す事項が開示されているものと認められる。

甲第9号証〔実願昭53-75832号(実開昭54-176845号)の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフイルム〕(以下「引例1」という。)

〈1〉 本考案はフエースポンデングタイプのチップ状固体電解コンデンサに関する(明細書第3頁第2~3行参照)。

〈2〉 また、第2図に示すコンデンサの場合、本体部分1の両端面よりL字状の陽極端子4および陰極端子5を引出した構造で陽極端子4と陰極端子5の先端部は本体部分1の底部と平行となるように折り曲げた形状であるため、本体部分1の底部とプリント基板までの間に大きな空間ができ、接着剤による貼付けが難しくなるとともに、全体の高さが高くなっていた(明細書第5頁第12~19行及び第2図参照)。

〈3〉 第3図a、bに本考案の一実施例によるチップ状固体電解コンデンサを示しており、図において10は直方体形状のコンデンサ本体で、このコンデンサ本体10は、タンタルのような弁作用金属の焼結体を陽極基体とし、この表面に誘電体性陽極酸化皮膜、二酸化マンガンのような半導体性金属酸化物層、カーポンのような陰極層および銀ペイント、半田のような陰極導電層を願次積層形成することによりコンデンサ素子を構成し、このコンデンサ素子より陽極端子11および陰極端子12を引出し、そしてコンデンサ素子周囲をトランスファーモールド成形による樹脂層で覆うことにより構成されている.前記陽極端子11は陽極体より引出した突出導入線に溶接により接続され、前記陰極端子12は前記コンデンサ素子の最外殻の陰極導電層に接続されている(明細書第6頁第6行~第7頁第1行及び第3図参照)。

〈4〉 第17図に示すようにコンデンサ本体10を縦に立てて取付ける場合は突起部10dによりコンデンサ本体10をプリント基板13上に安定に設置することができる(明細書第12頁第17~20行及び第17図参照。なお、突起部10dは基板13上の接着剤15に固定されている。)

甲第6号証〔実願昭52-173387号(実開昭54-98168号)の願書に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフイルム〕(以下「引例2」という。)

〈1〉 第5図、第6図はこの考案の他の実施例を示すもので、容器1の表面7にくぼみ8、9、10を形成し、各リードの第2の折曲部2B、3B、4Bのそれぞれを、各くぼみ内に位置せしめる。このとき、各折曲部2B、3B、4Bの表面は、容器1の表面7より下方に位置するように、各くぼみの深さが選定されてある。この構成の半導体装置Aを基板11に装填した状態を示したのが第7図である(明細書第4頁第6~14行、第5図、第6図及び第7図参照)。

〈2〉 第5図、第6図の構成では表面7が基板11の表面に直接接するようになるので、接着剤13による接着は確実となる(明細書第5頁第5~7行、第5図、第6図及び第7図参照)。

次に、本願考案と引例1記載のものを比較する。

引例1に開示されているチップ状固体電解コンデンサは、引例1記載〈1〉~〈3〉から明らかなとおり、本願考案とは、

「陽極導出線を備え、かつ表面に誘電体性酸化皮膜を有する陽極体上に電解質層を形成し、順次陰極層を積層形成し、前記陰極層上に陰極端子板を、前記陽極導出線に陽極端子板を固定してコンデンサ素子とし、前記コンデンサ素子を前記陰極端子板、陽極端子板の先端部を除き絶縁性樹脂により外装してコンデンサ本体を構成し、前記陰極端子板と陽極端子板の突出した前記外装した絶縁性樹脂層側部面および底部面に沿って前記外装した絶縁性樹脂より突出した陰極端子板と陽極端子板の先端部を折曲げ構成したフエースポンデングタイプのチップ状固体電解コンデンサにおいて、前記外装した絶縁性樹脂層の底部の陽極端子板と陰極端子板との間が、コンデンサが取付けられるべき基板の所定の箇所に設けた接着剤層に接着されるチップ状固体電解コンデンサ」

である点で共通しているものと認められるが、しかしながら、本願考案は、「前記外装した絶縁性樹脂層の底部の陽極端子板と陰極端子板との間に、コンデンサが取付けられるべき基板の所定の箇所に設けた接着剤層に接着される平坦な平面部を有する板状体の凸部を設けたこと」を必須の構成としているのに対して、引例1には前記必須の構成についての記載がない点で両者の間に差異があるものと認められる。

そこで、前記の差異について検討する。

チップ状固体電解コンデンサを基板上に安定に設置するために、コンデンサの底部の両端子間に、基板上に設けた接着剤層に接着される平坦な平面部を有する板状体の凸部を設けることは、引例1記載〈4〉で公知であること、及び半導体装置のようなチップ状電子部品を基板上の接着剤で確実に固着するために部品の底部の端子板間を凸部にすることが引例2に開示されていることから、引例1記載〈1〉~〈3〉で公知のチップ状固体電解コンデンサを基板に安定かつ確実に固着するにあたり、外装した絶縁性樹脂層の底部の陽極端子板と陰極端子板との間に、コンデンサが取付けられるべき基板の所定の箇所に設けた接着剤層に接着される平坦な平面部を有する板状体の凸部を設けることは、当業者が容易に想到しうることであり、本願考案の効果は、引例1及び引例2のそれぞれの技術を採用することにより当然に予測される範囲のものであり、格別のものとは認められない。

したがって、本願考案は、引例1及び引例2のそれぞれに記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるので実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成3年10月17日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判宮 (略)

特許庁審判官 (略)

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